昨年後半何かと忙しく、染料植物の投稿に手をつけられないまま年が明け、1月も下旬となってしまいました。1年で一番寒いこの季節、木々は葉を落とし草も地にへばり付くような緑が僅かに見えるばかりです。
そんな中、隣家との境に植えてある一位の艶やかな緑が梢枝に積もった雪と美しい対比を見せています。
←こんな風に綺麗に刈り込んでいるお宅もありますが・・・我が家の一位は伸び放題↓
古くは一位の木の芯材で赤い色を染めていたようです。しかし木を切って更に芯材だけを取り出すのは大変な手間で、あまり実用的とは言えません。ものの本には葉ではほとんど染まらないとありますが、試しに染めて見ることにしました。
枝から外した一位の葉。これを煮出した液で染めます。
以前裏白樅(ウラジロモミ)の葉で絹糸を染めた時銅媒染で赤味の茶色が染まった記憶があるので、もしかしたら同じような色になるのではないかと期待したのですが、結果は灰味の茶色でした。これはこれで渋くて良い色なのですが、今回使った被染物は生絹(すずし)だったので、練ってある絹糸やウールなどより濃い目に染まったのではないかと思います。
また、裏白樅で染めた時は夏、今回は冬なので、季節による色相に違いがあるかもしれません。
化学染料と違って植物染料は採取する場所、季節によって色相が変わることがしばしばありますし、その年の天候によっても変わってくるのは、野菜や果物と同じです。
ところで「生絹」って?と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
絹糸が蚕が作った繭を煮て糸を引き出したものであることは大概の方はご存知だと思いますが、この時点での糸は硬くピンとしています。繊維の表面をセリシンという膠質が覆っているからです。アルカリ性の液で煮てセリシンを溶解し洗い落すことで(精錬)、初めてあの絹の手触りが生まれるのです。
しかし敢えて精練(練るといいます)せず、張りのある糸のまま布にすることもあります。こうした糸あるいはこの糸で織った布のことを生絹と書いて「すずし」あるいは「きぎぬ」「せいけん」と言います。絽とか紗といった夏用の着物地はこうした糸で織られます。オーガンジーも同じです。これらの糸や布はセリシンのせいで練った絹より濃く染まります。ただし、摩擦や洗濯などにより、セリシンは少しずつ落ちていくので、使っているうちに張りがなくなり色も薄くなっていきます。
それもまた物の常の「移ろい」として、いにしえの人は楽しんだことでしょう。
いつも楽しく読ませて頂いている高野さんの植物染色の記事、 今回も学びがありました。 セイケン、 オーガンジー などという言葉は知っていましたが、セリシンが付いている糸であるとかあの張りのある薄い生地はそれで織られた物だったのですね? 韓国に行った時に見たあの薄い透き通るような、それでいて張りのある布で出来ている製品はもしかしてそのオーガンジー?
初めて記事を拝見しました。楽しそうですね。イチイを剪定しましたら、やってみたいと思います。高野様は生絹の糸をどのように使われるのでしょうか、織でしょうか。
イチイの葉や木材が染料になるのですか。驚いています。飛騨の一刀彫等でイチイの木材が使われていますが、色も染め物のように深い茶色が印象的です。木材では中心部分が茶色なのですが外皮部分が白いのでコントラストが面白く工夫された彫刻や置物があります。植物と染料の話、続きを楽しみにしています。
いつも興味深く拝読しています。セイケンではなくショウケンと私のまわりでは言っていました。一位の実は赤く甘いのに種が有毒なので動物も食べに来ません。