染料植物賦(8) 「蕗の薹(フキノトウ)」

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軽井沢の遅い春もいよいよ本格的となり、やっと出てきたと喜んでいた蕗の薹もすっかり大きくなってしまいました。枯葉の下から「ここに居るよ!」と言うように顔を出す蕗の薹で染めてみたいとずっと思っていたのですが、どうしても食べる方が優先され、なかなか実現しませんでした。この原稿を書くことも推進力となりこの春やっと絹糸を染めることができたのですが、結果は明礬媒染優しい黄色、銅媒染で緑味のある黄色。期待ほどの濃い色にはなりませんでしたが使用に耐えられる色です。


そもそも植物染料に関する文献に染材として載っているのを見たことのない「蕗の薹」で染めてみようと思ったことには伏線があります。
ある年北海道から立派なアスパラガスが届き新鮮なうちにと湯掻くと、後のお湯が思いの外濃い緑色を呈していたのです。「ん?もしかして染まるかも?」手元にあったシルクのスカーフ地を浸け、銅媒染をすると、見事しっかりした抹茶色に染まったのです。この時はそれ以上の追求はしなかったのですが、その事は頭の隅に住み着いていました。この緑は芽吹きのエネルギーのような気がしたのです。芽吹きのエネルギーといえば遠目にもパッと目に入る蕗の薹の萌黄色ほどそれを感じさせるものはありません。
蕗にもいろいろ種類があるようで、軽井沢の中でも生えている場所によって大き物小さい物と様々です。千歳空港に生えていた蕗の大きさにはびっくりしました。コロボックルのことを思い出してなんとなく納得したものです。雄株(雄花)と雌株(雌花)があるということも知りましたが、染めるのも食べるのもみんな一緒くたです。もしかしたら違いがあるのかもしれません。

雄花
雌花

ところで植物染料を抽出するには通常水で煮出しますのですが、煮出す時間は染材によって違います。一般的に樹皮や木材、根などは長時間、葉など薄いものは短時間で引き揚げます。今回は10分位は煮ました。それ以上煮ても濃くなりそうもなく、逆に雑味が出てしまうこともあるからです。茹で上がった蕗の薹、そのまま捨てるのも勿体なくて蕗味噌にしてみました。苦味、香りがマイルドになってこれはこれでいけるかも。ちょっと得をした気分です。そういえば雪解け水が滔々と流れるクロアチアのプリトヴィツェ湖の水際に蕗の薹が沢山生えていて、クロアチアの人は食べないのかなあと思ったのを思い出しました。オリーブオイルで炒めても美味しいのに!

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