染料植物賦(4)「待宵草」

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「待てどくらせど来ぬ人を~」の宵待草は待宵草の別名という事ですが、“夜な夜な”空き地を淡いクリーム色で席巻する待宵草は昼間溜めた光を夕闇にそっと放っているようで幻想的ではありますが、竹下夢二の“なよなよ”美人を連想するのはちょっと難しい気がします。太宰治の「富獄百景」に出てくる月見草も待宵草のことのようですが、「けなげにもすっくと立っていた」というからには見えたのは1本だけだったのでしょう。いつからこんなに群生するようになったのでしょうか?

20年以上前、追分の原っぱに生えている待宵草で初めて絹糸を染めた時、その妖しい(?)色に感動しました。

この草で染めるとなると、花の色から黄色と思う人が多いと思います。確かに黄色に染まることは染まりますが、あまりはっきりした色にはらないので、染料としての有用性はあまりないのです。

じつは花ではなく枝葉を用いて染め、鉄で媒染するとグレーになるのです。

待宵草で染めるグレーの特徴は、紫がかっていることです。その後、ウールでも試してみたのですが、この時はむしろクセのないグレーでした。それでちょっと熱が冷めてしまってその後使っていなかったのですが、今年妙に待宵草が目につき、植物繊維ではどうだろうと思い立って、手持ちのリネン糸で染めて見ました。結果、絹の時と似ている紫味を帯びたグレーが染まりました。糸の量の2倍の染材を使ったのですが、予想していたより大分濃くなってしまいました。日本の色名だと何というのだろうかと「和の色辞典」を紐解いてみました。最近は、色名を言う時カタカナを使う場合が多いですが、日本名だと灰色とか鼠色。江戸時代には「四十八茶、百鼠」と言われるほど「鼠」がつく色名が多かったそうです。それでもピタリと合う色名はなく、「鼠志野」と「黝(ゆう)色」の間ぐらいでしょうか。染材の量を変えるとまた違った色名になるのでしょう。山崎青樹氏は草木染め・染料植物図鑑の中で「花が咲いているうちはかわいそうなので、花が終わった9月以降・・・」と書いていますが、寺村裕子氏は「ウールの植物染色」に「花の咲きはじめたころの花と枝葉を・・・」と書いています。男性と女性の感覚の違いか、単にそれぞれの感じ方なのか。私の場合は花が有っても無くても、むしろ枯れて汚くなっていたり、虫が喰っているのは避けて使います。

ここでは「待宵草」と大雑把に言いましたが、実は待宵草、大待宵草、荒地待宵草(雌待宵草)等々色々あって、正直なところ私には判別できません。この辺りに生えているのは大待宵草か、荒地待宵草だろうと勝手に思っています。ちゃんと検証したことはないのですが、どれも同じような色に染まるのではないかと思います。

 

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1 thought on “染料植物賦(4)「待宵草」

  • by Anonymous
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    いつも興味ある投稿を読ませていただき楽しんでおります。
    今回の待宵草の染め色が、グレーに紫がかったものと聞いてドキッとしております。実は小生は野鳥にも少々興味があり、鳥の配色が人間世界のファッションの色の原点になっているのではと考えております。
    中でも良く庭にやってくるヒヨドリは、声は甲高くて気性も荒いのではないかとの飛び方をするのですが、羽の色はグレーが大部分ですが茶色とグレーがかった白が少し混じった全体的に地味な色合いですが、どこか品がある気になる男のファッションの原点に有るように思えるのです。
    そんな事を思いながら、今回の染め上がった糸からどんな作品が生まれるかを勝手に想像しておりますが、もし可能であれば茶色を組み合わせた男性用のセーターか冬用の帽子などを作って頂ければ飛んで行きたいと思います。

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