染料植物賦(9) 「上溝桜(ウワミズザクラ)」

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草木染めの本でこの植物を知った時は二重の意味で印象に残りました。一つは茶色を染める染材であるということ、もう一つは初めて知る桜で、尚かつその花は私の知っている桜とは全く違う様相を呈していたからです。
上溝桜は北海道から九州まで自生しているそうで、もしかしたらそんなに珍しい桜ではないのかもしれませんが、街育ちの私は50歳過ぎて秩父で初めて実物を見ました。嬉しくて「これはウワミズザクラっていうのよ」と同行していた友人に得々と教えたものです。
ところが軽井沢に住み始めると、至る所にあるではありませんか。さらに驚いたことに我が家の庭にも!それまで気がつかなかったのですが、実生が成長したらしく2年前から花が咲き始めたのです。

上溝桜の花

文献によると上溝桜染めは越後、会津、郡内などで赤茶色などを染めるのに使われていたようです。
茶色を染める植物は沢山有りますが、こっくりとした茶色を染めるのはなかなか難しいのです。一回で吸収する染料の量は限度があるので、大量に染材を用いたからといって濃い色が染まるとは限りません。色相自体は濃くても、水彩絵の具のような色になってしまうことが多いのです。
絹を染める場合は、何度も染め重ねることで好みの濃さにすることができるのですが、羊毛の場合は高温で染めなければならないのに熱や摩擦に弱いという性質上、あまり何度も染め重ねることはできません。また昔は重クロム酸が媒染剤として良い仕事をしてくれたのですが、発がん性や毒性の問題で現在では使用できません。比較的最近使われ始めたのがチタンで、これがクロムのような働きをしてくれるのではないかと期待しているところではあります。
昔から染料植物は樹木が多いのですが、木を切ったり皮を剥いだりするのは大変なので、自分で採取して使う染料は枝葉、花、実に限られてしまうのが現状です。よく軽井沢に住んでいるからには野山に染料を採取しに行くのでしょうねと言われるのですが、そんなに簡単なものではありません。採取しやすい状態で潤沢にあり、なおかつ気兼ねなく・・・という条件を満たすものはそうそうありません。
という訳で、上溝桜の茶色はどんな色なのかとても興味があるのですが、実はまだ染めたことが無いのです。「気兼ねなく・・・」という条件はクリア出来たので、時期を見て染めてみたいと思っています。
ところで夏になる実が赤から黒に熟して可愛いのですが、若い実は塩漬けにしてお酒のアテなどにすると美味しいとか。そろそろ花が終わるのでまずは実を採取して塩漬けを作ってみようかと思います。どうしても舵が「色」ではなく「食」の方に傾いてしまうのはなぜでしょう。

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2 thoughts on “染料植物賦(9) 「上溝桜(ウワミズザクラ)」

  • by Anonymous
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    今年はウワミズザクラの当たり年のようです。上溝桜と書いて何でウワミズと読むのか?とか、塩漬けを杏仁香(あんにんご)と言うのだそうですが、中華料理のデザートに出てくる杏仁豆腐の香りであるらしいとか、なかなか面白い樹木です。

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  • by Anonymous
    1+

    ウワミゾからウワミズになったようですよ。地方によってはウワミゾザクラと言うところもあるようです。

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