染料植物賦(7) 槐(エンジュ)

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我が家には槐の木が1本あります。私の工房の名前「槐(KAI)」に因んで、家を建てた時に植えたものです。
「どうして「槐」に?」とよく聞かれるのですが、美しい黄色が染まることと音読みの「カイ」という語感が好きだったからです。
黄色に染まる植物は沢山あります。その中でも槐花で染めた黄色は雑味のない色合いで、藍下(先に藍で青色を染めておく)ですっきりとした綺麗な緑も得られます。

槐の花

原産は中国で日本には薬用として8世紀には渡来していると言われます。故事によく出てきて「槐夢」(はかないといった意味)などという言葉もありますが、どちらかと言うと高い位を表したり、福を呼ぶといった縁起の良い木とされています。
学名は中国原産なのにStypnolobium japonicum。植物の学名ではよくあることだそうです。
中国では染料としても多用されていたようですが、日本ではなぜか使われていませんでした。私自身染織を学んでいた学生時代はその存在を知らず、使い始めたのは25年ほど前からでしょうか。
所沢にある航空公園の裏手の自動車道の街路樹が槐で、夏、花が咲き始めると塵取りと箒を持って落花を集めに行ったものです。花蕾の方が濃く染まるようなのですが、近くに寄ると意外と背が高く摘みたくても手が届かないのです。新小金井街道や川越街道の街路樹にもありますが、航空公園の裏の道はなんと言っても車の往来が少なくゴミも少ないので槐花の採取には持って来いの場所でした。集めてきた花はゴミを取り除いて冷凍保存します。
軽井沢でも槐の木がないかと探し回ったのですが、未だ見かけた事がありません。よく見かける針槐(ニセアカシア)とよく似ているので、これでも染められるかと試したことがあるのですが、残念ながらダメでした。槐の花に含まれるルチンが黄色い染料の素となっているようで、針槐にはそれがないのだそうです。北海道でエンジュと呼びその木材が内装材や木工材として使われるものは正式には犬槐でこれもまた染料にはなりません。ストックももう無くなってしまったので、どなたか見たという方がいらっしゃったら是非教えていただきたいと思います。
えっ、「家に植えた木は?」って?30cmほどの苗を植えてから早9年、当初の予定では少なくとも5mは超えて毎年花や葉(緑系の色が染まるはずなのです)で糸を染めているはずなのですが、やっと50cmといったところで一輪の花さえ未だ着ける気配はありません。ものの本には槐は丈夫で成長が早く、3年で1mになると書いてあるのですが・・・。ただ丈夫なことは確かなようで、ある年は雪の重みで折れ、ある年は雑草と一緒に草刈り機で頭をはねられ、それでも枯れることなく春になると緑の可愛い豆科特有の羽状複葉が出てくるのです。一体いつになれば我が家のシンボルツリーは夏の日差しを受けてハラハラと薄黄色の花を降らせてくれるのでしょうか。それともこの子にその未来はあるのか?

我が家の槐の木。人間なら腰まで雪に埋まっているというところでしょうか。ガンバレ!!

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1 thought on “染料植物賦(7) 槐(エンジュ)

  • by シマフクロウ
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    北海道勤務時代に槐の木工品を手にしましたが、芯材の黒っぽい部分と辺材のクリーム色のコントラストに魅了されました。染物に使う樹種が中国原産の槐で、北海道のものは犬槐との事、勉強になりました。槐は街路樹に使われているということですので、今後注意して観察してみます。
    蕎麦打ちしますが、韃靼そばにはルチンを多く含み、色合いも黄色ですので染色に使えるのでしょうかね?

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