春中楽しませてくれたスミレの花も6月ともなるといよいよ終わり、そしてそれまでの可憐さからは思いもよらないほど葉が大きくなったら、レジ袋片手に近所を散歩がてら葉の採取をするのが私の毎年の慣わしです。
子供の頃のスミレのイメージはよく絵で見る細長い葉に濃い紫色の花でした。それが武蔵野の雑木林が残る地に越して、薄紫色にハート型の葉っぱのスミレに出会い、ちょっとガッカリした記憶があります。そして又引っ越しした先では、花の終わったスミレの葉がどんどん大きくなる事にびっくり(その時はどのスミレの葉も大きくなるのだと思っていました)。今軽井沢に住むようになり、庭のそこここに咲くスミレに春の喜びを味わうとともにその種類の多さに驚き、大きくなる葉っぱもあれば小さいままのものもあり、形も様々という事を知りました。
30年近く前、山崎青樹という植物染めの研究者が緑色を染める新しい方法を発表しました。古来緑色を染めるには藍で青く染めたものを黄色の染料で染め重ねていました。葉も茎も緑なのに基本的には植物でダイレクトに緑色を染めることはできません。染められるのはせいぜい「薄黄緑色」「枯草色」「オリーブグリーン」といったところで、堅牢度もあまりよくありません。山崎青樹の発見は、染材を煮出すときの水を弱アルカリにすることで緑色に染める事ができるというものです。スミレの葉が大きくなるという事を私が知った頃のことです。私の中で、その染め方と青々と大きく育ったスミレの葉が合体しました。スミレの葉を染材として使うという記録は見た事がありませんし、山崎青樹もスミレへの言及はありませんでしたが、びっくりするほど大きくなってエネルギーに溢れている様に見えるスミレの葉に「もしかして染まるのでは・・・」と何の根拠もなく思ったのです。閃いたとしか言えません。
早速、塀際にへばりつく様に生えているスミレの葉を摘んで、山崎青樹のレシピ通りに染めて見ました。被染物は手紡ぎしたカシミヤ、高価な上に手間が掛かっており上手くいくかドキドキでした。結果、草色の域を出ないものの澄んだ緑色を得る事ができたのです。それ以来、特に軽井沢に住むようになってからは、大きく育ったスミレの葉を見ると摘まずにはおれません。
植物染のネックは、染めたい色とその染材の時期が一致するとは限らない事です。季節のもので染めるのが一番で、又楽しいことではありますが、1点1点デザインし、糸を作り、染め、織るという仕事の上では、それはなかなか難しいことです。
乾燥して保存できるものもありますが、スミレの葉っぱのようなものはどうか?そこで昔は考えられなかった「冷凍」保存をすることに。摘んでは冷凍し、さてこれでどんな作品ができるか思い巡らすのも楽しみの一つです。
スミレの葉で染めた絹糸
6月のスミレ
スミレの冷凍葉で染めた深い緑色の絹糸は織物になって何に変身するのでしょうか。
6月のスミレも軽井沢ならではですね。葉の緑が鮮やかで大きい!
次の植物染めの記事を楽しみに待ちます。
綺麗な緑にそまりましたね!スミレの葉っぱはどれくらいの量必要だったのですか?以前ハナヒョウタンボクの葉っぱと幹でどんな色が出るか染めて頂いたことがあります。9月頃が良いと言われ軽井沢のゴミ袋一杯切ったことがありました。
染色は大変な作業ですね、この緑の糸で何を織られるのか
出来上がりが楽しみです。また見せて下さいね。
若草色系の緑や薄い茶系統の色には何故か大変に魅力を感じます。画像の絹糸キラッと光っているようなところ良いですね。
お話のスミレ、確かに花が終わってから静かに消えていく種類と、ガンガン葉が大きくなっているものがありますね。後者は繁殖力を上げるために葉を成長させつつ根茎をしっかり太くして子供株も作っているのではないでしょうか。
染色の作業、仕事にせよ趣味にせよ応用化学の世界の様子で結構予備知識が必要のようですね。陶工が自分好みの釉薬を作り上げるために沢山のサンプルを成分を変えた釉薬・焼成温度の組み合わせて作っているのに似ているなと思いました。第3弾のお話を期待しています。
ユニークですね。私も(は?)ますますヘンジンであるよう心がけます。もう失うものはありませんので。
それにしても来年の機関紙「われもこう」での発表の方が良かったかも。はるかに読者は多いですから。